へら鮒天国TOP > 特集・記事一覧 > 稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第61回 抜いて良し持たせて良し!杉本智也の未来型マルチ段底戦略


へら鮒釣りに限らず、何事においても基本は大事だが、基本を守ってさえいれば満足いく結果が得られるかといえば、その答えは「ノー」である。競技の釣りにおける勝負を分ける1枚も、野釣りでの記憶に残る1枚の巨べらもまた、徹底した基本の積み重ね+αの何かがなければ決して得ることはできない。その何かとはすなわち他人とは違った発想と、それを実行に移せる行動力である。 名だたるアングラーは皆こうしたスタンスで己の釣りを磨き、独自の狎こΥ境瓩鮑遒蟒个靴討い襪、今回オファーをした彼もそんなへらアングラーのひとり。マルキユーフィールドテスターの杉本智也だ。彼には発売間もない新生「段底」を使った段差の底釣り(以下、段底)を披露してもらったが、その釣りは従来型の段底の常識を覆し、新時代の到来を予感させる釣りであった。  
   
「段底って守りの釣りというイメージがありませんか?確かに冬場の釣り方として手堅く釣れることは間違いありませんが、いざ勝負の釣りとなると選択肢から外してしまうことも多く、競技向きの釣りと思われていないことは明らかですよね。でも決してそんなことはありません。実際に昨年のシマノジャパンカップ決勝戦でも僕自身やっていますし、冬場であれば宙釣りと互角以上に渡り合える釣果をあげることも可能なのです。」
今回の取材フィールドは埼玉県白岡市にある隼人大池。超大型のへら鮒が釣れることで知られる同池は、かつては段底の聖地とまでいわれたフィールドである。水深の深い新池中央桟橋に釣り座を構えた杉本は、釣り支度を整えながらこう切り出した。よほど段底に自信があるようだ。しかし段底は手堅い反面バリエーションに乏しく、厳寒期になればなるほどジッとウキを見つめる我慢大会のような様相を呈してくる。その一方で、近年段底は宙釣りのような早抜きバラケの釣り方が流行し、以前よりも大きな釣果が得られるようになってきたが、一歩間違えば完全な時合い崩壊を招くハイリスク・ハイリターンの釣りになっていることは否めない。そんな段底事情のなか、杉本はいったいどのような段底を見せてくれるのであろうか。
興味津々で眺める記者の視線を尻目に、早いテンポでエサ打ちを始めた杉本。まずはへら鮒を寄せるためのハイテンポな切り返しかと思いきや、やがて深々とナジんだウキが動き始めると、バラケが上バリに残った状態のままのアタリであっても躊躇なくアワせ始めた。そして段底の命とも言うべき狆”虧楡垢雖瓠淵丱薀韻完全に抜けた状態でトップに表れるエサ落ち目盛り)が水面上に出る間もなく早々に連チャンを決めると、その後も大半のアタリをバラケが残ったままの状態でアワせ、時合いを崩すどころか益々そのペースを上げたのである。もちろん毎投ヒットできる訳ではないが、早いアタリが出難く なった時点では無理に深追いはせずに、勝負目盛りが出てからの鉄板アタリで数を伸ばし、早いアタリが出始めると再びトップが深ナジミしたところからでも積極的にアワせ、大きな穴をあけることなくコンスタントに釣り込んでみせた。それは「勝負目盛りが出てからのアタリに狙いを絞り、バラケがあるうちはアワせるな!」という従来型の段底の常識を根底から覆す、実にアグレッシブでマルチな段底戦略であった。
 

   
■サオ
底釣り全般にいえることだが、タナ取りの精度はもちろんのこと、エサの打ち込みポイントが大きくズレたりしないよう、また冬場につきものの流れへの耐性を高めるため、サオ一杯で底が取れる長さのものを選ぶ必要がある。今回は最初に釣り座を構えようとしたポイントの水深が僅かに深過ぎ、16尺では無理をすれば届くが17尺では余り過ぎるということから水深を計りながら横に移動し、16尺で理想的な位置にウキが来るよう最終的な釣り座を決めた。
 
■ミチイト
底釣りなので伸縮による狂いが生じ難いものがベストであるが、その中でも比較的硬めで張りのあるナイロンラインを好む杉本は、迷うことなく「将鱗へらTYPE-尭算紂廚鬟船腑ぅ后B膩燭戮蕕多く、しかもまだ11月ということもあり1.0号を選択したが、厳寒期であれば0.8号まで落として繊細な食いアタリを逃さないように心がけている。
 
■ハリス
上ハリスの0.5号-15cmはほぼ固定し、バラケの動きを安定させたうえでくわせエサとのシンクロを図る。下ハリスの長さ55cmは標準的な長さであり、変える(通常は長くする)場合はタナを計り直さず、しかもウキの位置を変えることなくズラシ幅を大きくする目的で伸ばすことがある。たとえばウキが深ナジミした状態で頻繁にアタリが出て釣れる場合、下ハリスはバラケが抜けた状態よりもズレているため、大きめに這わせた方が良いと判断し3〜5cm伸ばすのである。
 
■ハリ
バラケを残したままでのアタリを積極的に狙う杉本のアプローチの根幹は、意識してバラケを抜こうとはせずにチリチリとゆっくりバラケさせ、ギリギリまで上バリに残しておくことにある。よってエサ持ちの良い形状で大きめの「アラシ」がベストということになる。一方で下バリはくわせがあおられて不安定な状態にならないよう、比較的軸が太めで大きなものを愛用している。なかでも「角マルチ」はエサのホールド性能にも長けているので、杉本御用達のくわせバリとなっている。

■ウキ  
杉本が披露してくれた新たなアプローチの段底では、ウキが果たす役割は極めて重要だという。一般的な底釣りではウキの戻りを優先するために、パイプトップ仕様のウキがスタンダードとなっているが、今回彼が持ち込んだ忠相の新作底釣りウキ「S Position BOTTOM(エス ポジション ボトム)」は細めのPCムクトップを採用している。これは小さなバラケでも大きなナジミ幅を出すことが可能であることに加えて、ゆっくりバラけるエサが戻す力(主にトップの浮力が関わって来る部分)で抜け落ちないよう配慮したものである。いわば 今回の段底を支えている屋台骨ともいえる重要なアイテムと言えよう。現在浅ダナ用のウキを中心に宙釣り用のウキには様々なシチュエーションに特化したウキが数多く出回っているが、底釣りウキに関しては今なおバリエーションの乏しい状況が続いている。それは底釣りのアプローチ自体変化が少ないことが大きな要因と考えられるが、新たなアプローチを実現するためには、こうした前衛的ともいえる未来型のウキが求められているのかもしれない。
 
 
 
タナ取りは底釣りの基本であり、正確かつ的確なタナ合わせができなければ底釣りは始まらない。まずは個性的ともいえる杉本のタナ取り方法について解説してもらおう。詳細は動画でも紹介しているので一目瞭然だが、このタナ取りについて杉本は、
「底釣りで釣れない人の多くは、タナ取りの時点で正確性に欠けていることが多いように感じます。折角へら鮒を寄せても肝心のくわせが底に着いていないと、また着いていたとしても食い難い状態になっていたのでは食いアタリにつながりません。安定して着底しているくわせの傍にへら鮒を誘導するのはバラケの役目ですが、くわせを口に入れるためには食いやすい状態で底に位置させなければなりません。そのためには100%の自信を持ってタナが取れていることが絶対条件なのです。」
読者諸兄に問うてみたいのだが、宙釣りならば普通に釣れるのに、段底でくわせが底を離れてしまうとたとえ僅か1cm離れただけでも、またどんなにへら鮒がエサの近くに寄っていても、極端にアタリが出難くなってしまったという経験はないだろうか。食いアタリを出すためには、最低限くわせが底に着いていることが条件であり、これが整わないとすべてが始まらないのである。では改めて杉本流のタナ取りの手順を確認しておこう。

●手順1 上バリのみ結び、宙でのエサ落ち目盛りを決める(ここでは9目盛り水面上に出す)

●手順2 下バリを結び、宙でのエサ落ち目盛りを再確認する(2目盛り半ナジむ=6目盛り半出る)

●手順3 下バリにタナ取りゴム(ウキが自然に沈むくらいの重さのもの)を付けてタナを計る

●手順4 釣ろうとしているポイント周辺の前後左右の水深を計り、アタリを取ることが予想される範囲(概ね30cm四方)の一番深いところでトップ先端1目盛りが出るようウキ下を調整する

●手順5 ミチイトに結んだトンボ(水深の目印)をトップ1目盛りの位置に合わせる

●手順6 トンボの位置に「手順2」で確認した6目盛り半の位置を合わせれば下バリトントンのタナになる

●手順7 確実に下バリを底に着けるため、5cmくらい(トップ3目盛り分)ウキを深くする

●手順8 空バリで打ち込んで下バリが底に着いた状態でのエサ落ち目盛りを確認する(下バリの重さが消え、9目盛りが水面上に出れば100%下バリは底に着いていることを証明している)


「僕は何もズラシ幅の1〜2cmにこだわっているのではなく、確実にくわせ(下バリ)を底に着け、安定した状態を確実にキープしたいだけなのです。これができればほぼアタリは約束されたようなものなので、あとはバラケをしっかりナジませてゆっくり開かせれば良いだけですからね。」

スタンダードなタナ取り方法とは異なるが、確実にエサ落ち目盛りを出す点においては些かの違いもない。大切なのは方法ではなく、確実に底に着いているという自信と安心感なのである。

杉本の段底の最大の特徴は、バラケを上バリに残した状態。すなわちウキを深ナジミさせた状態でも食ったと思える狷阿瓩出たときは、ためらうことなくこれにアワせていることだ。あえてアタリと表現しなかったのは、深ナジミした状態でのアタリは上バリなのか下バリなのかが明確に区別できないという記者の思いからであるが、ひとつだけハッキリと言えることは、上バリ下バリいずれを食っても何の問題もないという点だ。
「段底だから底に着いた下バリ食わせなければいけないというルールはありませんから、たとえバラ ケを食っても釣果としての1枚に変わりはありません。もっともウドンセットの宙釣りでは意図的にバラケを食わせることもあるので、それを段底に置き換えてのアプローチと考えれば、こうした組み立て方に至っても当然のことではないでしょうか。」
そうは言っても、やはりウワズリのリスクが脳裏を駆け巡ると、なかなかアワセきれるものではない。そこで読者諸兄に安心して深ナジミ中の爛▲織雖瓩縫▲錣擦蕕譴襪茲Α△海猟爐衒のシステムと水中で起こっている動き(あくまでイメージ)を確認しておこう。 まずは正確なエサの打ち込みが必要不可欠だが、トップ1〜2目盛りが水面上に残るくらいの圧加減でエサ付けし、十分上バリにバラケを残してトップを深ナジミさせる。このとき下バリは底に大きく這った(ズレた)状態となっている。仮に下バリトントンのタナから3cmズラしたタナ設定の場合、一時的には10cm以上ズレていることになる。そしてバラケの表面がチリチリと剥がれる感じで粒子が沈下し始めると、一定のスピードでトップがジワジワと戻してくる。活性が低下して食い渋ったへら鮒は、ゆっくり沈下する粒子の方が底へと誘導しやすいので、このときバラケが塊のまま一気に抜けないようにすることが肝心だ。トップが戻し始めると少しずつライン全体にテンションが掛かり、下ハリスの緩み(たわみ)が取れ、くわせを吸い込んだときの小さな食いアタリが伝わりやすくなる。このときがファーストヒットチャンスと捉え、小さいストロークであっても鋭いアタリは積極的にアワせていく。たとえそれが食いアタリでなくても、バラケは「段底」をベースに「粒戦」や「セットアップ」で構成されたバラケなのでエサ切れが良く、ハリから抜けた塊は瞬時に直下に沈下していくのでウワズリの心配はない。もちろんバラケがあるうちにアタリが出なくても、バラケが抜けた後には従来型の段底同様くわせエサだけの状態で、サソイを入れながらアタリを待てば良い。これがセカンドヒットチャンスという訳だが、2〜3回のサソイでアタリが出ないときは打ち返し、再びファーストヒットチャンスを狙うのだ。 杉本はこの好循環を維持することで常にへら鮒の寄りを確保し、従来型の段底ではバラケが上バリから抜けてからしかなかったヒットチャンスを、あえてバラケが残した状態からでも狙うことで、倍近いヒットチャンスを生み出している。つまりバラケを抜いても持たせても、どこからでも攻められるマルチ戦略のもと、超攻撃的な段底が構築されているのである。
「何が何でもバラケがあるうちにアタリを出そうとは思っていません。へら鮒のレスポンスが低下すれば自然と食うタイミングは遅くなるので、必然的にバラケが抜けてからのアタリがメインになります。それでも一日のうちでは必ず早いタイミングで食うことがあるので、それをみすみす見逃していたのでは勝負になりません。だからこそチャンスを逃さぬようアグレッシブに攻めるのです。」



 
 
 
段底最大の敵はウワズリである。これがあるがゆえに「上バリにバラケが残った状態ではアタリが出てもアワせるな」という教えがあるのだが、ウワズリをほぼ完全に抑え込み、底近くに居るへら鮒をくわせへと誘導しアタリへと導く手立てがあれば、何も恐れることはなくもっと積極的に攻めることができるはずだ。
「このアプローチは以前から試行錯誤を繰り返していたのですが、先頃『段底』が発売されたのを機に新たなバラケのブレンドを試したところ、今回紹介したバラケに辿り着きました。まだ本格的に使い込んでいる訳ではないので未完成なところもあるのですが、なんとか当初の狙いは達成できるものに仕上がっていると思います。加えて新作ウキである「S Position BOTTOM(エスポジション ボトム)」のポテンシャルを生かして高性能のバラケをタナで持たせられれば、ストレスのない理想の段底が組み立てられ、勝負のできる段底が完成できますね。」
取材時の釣りでさえ、かなり完成度の高い釣り方だと思えたのに、さらにブラッシュアップされてしまっては誰も杉本の段底に敵わなくなってしまうではないか。特に「段底」をブレンドに加えたバラケはエサ切れが良く、たとえ上層まで舞い上がったとしても素早いスピードで直下に沈むので、今までよりもアグレッシブな攻めが可能になると、発売間もないながらも杉本は新生「段底」に全幅の信頼を寄せている。
「新たなアプローチを完成させるには、従来のものだけでは困難なケースが多々あります。エサに関してはメーカーの開発に委ねるしかありませんが、ウキに関しては我々の考えや現場の声が新たな製品 の誕生に大いに役立ちます。僕自身まだ新エサも新ウキも完全に手の内に入れた訳ではないので、まだまだ伸びしろがあると思っています。特にウキに関してはPCムクトップと竹足という今までにあまりみられなかった斬新な組み合わせの底釣りウキになっているので、まだ引き出しきれていないポテンシャルを100%活かすことができれば、新生『段底』とのコラボレーションで、さらに攻めの釣りができると思いますよ!」
 
 
   
 
 
  実は取材の最後に、記者は杉本の釣り座で竿を振らせてもらった。すべてが釣れている状態に整えられたままエサを付けて打ち込んだので簡単に釣れると思ったのだが、アタリどころか数投は彼のようにナジミ幅を上手くコントロールすることすらできなかった。このことはエサやタックルセッティングの完成度がどんなに高くても、バラケの付け方ひとつで時合いを崩壊させてしまう恐れがあるということを物語っている。それでも悪戦苦闘しながらなんとかナジミ幅をキープできるようになったものの、ついにバラケが付いた状態でアタリを出すことはできず、釣れたのはすべてバラケが抜けてからしばらく経って、くわせだけの状態でサソイを入れている最中。つまり従来型の段底になってしまっていたのだ。 エサ付けの重要性については理解していたつもりだったが、これほどまでにハッキリとした違いがでようとは思いもしなかった。杉本は記者がPCムクトップウキに慣れていないことが原因だと慰めてくれたが、これを機会に改めてムクトップウキによる段差の底釣りもマスターしてみようという気持ちにさせてくれたことに感謝しつつ、今回のレポートを締め括らせていただこう。最後に杉本は、こう言って新時代の段底へのチャレンジを促した。
「従来型の段底のアプローチを否定するつもりはありませんが、時代の移り変わりと共に変化をするのがへら鮒釣りなので、常に時代に合った釣り方を考え、それをマスターすることは至極当然のことだと 思います。僕自身まだ完璧に手の内に入れた訳ではありませんし、改善する余地はまだたくさんあります。そのなかでバラケのエサ付けは最も難易度の高いテクニックといえますが、これは段底だけではなくすべてのセット釣りに共通するものなので、是非マスターしていただきたいテクニックですね。幸い『段底』のお陰で持たせ方や開かせ方はかなり楽になりましたので、是非皆さんも新たな段底ワールドを体感してみてください。」
 
     

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