稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第78回 上村恭生の浅ダナヒゲトロセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第78回 上村恭生の浅ダナヒゲトロセット釣り

関東甲信地方では観測史上最も早い梅雨明けとなった2018年の夏。いきなりの猛暑に早くも夏バテを嘆く読者諸兄も居られるかもしれないが、そんなアングラーにこそお勧めしたいのが、今回紹介させていただくヒゲトロセット釣りだ。なかでもカッツケ釣りを含めた浅ダナヒゲトロセット釣りはスピーディーで、ときに両ダンゴの釣りを凌駕するほどの大釣果をたたき出すポテンシャルを秘めている。加えてそのアタリは明快で、しかもヒット率が高いうえに釣れてくるへら鮒の型もデカいとなったら、もうやるしかあるまい。今回はそんな魅力満載の浅ダナヒゲトロセット釣りを得意とし、自らも好きな釣りだと言ってはばからないマルキユーインストラクター上村恭生に、その魅力と釣り方を余すことなく披露してもらった。

見た目はHOTでアグレッシブ。でも頭の中ではCOOLで緻密な戦略が…

今回の取材フィールドは岐阜県海津市にあるつつじ池。長良川と揖斐川に挟まれた中州を流れる大江川に形成されたワンドの一部を仕切り網で覆うといったスタイルの管理釣り場で、その自然豊かな環境に加えて中京地区随一と賞される型の良さにも定評があり、夏の釣りを紹介するにはまさに打ってつけのフィールドである。記者は5年ぶりで釣技最前線に登場となった上村に、いきなりこんな質問を投げかけてみた。「夏は両ダンゴでもヒゲトロセット釣りでも釣れるが、いずれを選択するのかの基準についてどういう考えを持っているのか」と。すると「とにかくアタリが早く出る方」だとの即答であった。

「まず釣果を出そうと考えたときに重要なことは、できるだけ早いタイミングで食いアタリを出すことです。なぜなら、食いアタリが早いとエサ打ちの回転も速くなり、無理をしなくても自然と釣果が伸びることになるからです。どちらを選ぶかは状況次第ということになりますが、ヒゲトロセット釣りには両ダンゴにはないメリットも多いので、それが生かせる状況であれば好んでやることが多いですね。たとえばウキに無駄な動きが出難くアタリが明快であることや、両ダンゴに比べてヒット率が高いうえに釣れてくるへら鮒の型も良いとなれば、もうやるしかないでしょう(笑)。」

なにやら上村のこの話を聞いただけで、たくさん釣れるような気がしてしまうのは記者の錯覚であろうか。たしかに夏場において釣れる実績の高いヒゲトロセット釣りではあるが、その必釣ポイントを押えたうえで、釣況に応じた適切な処置がタイムリーに繰り出せなければ、決して簡単に釣ることはできないだろう。事実、このあと目の前で繰り広げられた上村の釣りは、見た目はHOTでアグレッシブな釣りなのだが、随所に繰り出されるシンプルできめ細やかなテクニックを見るにつけ、頭の中は実にCOOLで緻密な戦略が練られていることがうかがえる。では早速実戦釣技を見てみよう。

使用タックル

●サオ
がまへら「千早」8尺

●ミチイト
サンラインパワードへら道糸「奏」 0.8号

●ハリス
サンラインパワードへらハリス「奏」0.5号  上8cm/下15cm

●ハリ
がまかつ「アスカ」 上6号/下4↔︎3号

●ウキ
ディテール「スピードワン」3.5号
【1.4mm径スローテーパーパイプトップ5.0cm/ 5.7mm径二枚合わせ羽根ボディ3.5cm/ 1.2mm径カーボン足4.5cm/オモリ負荷量≒0.35g/ エサ落ち目盛りは全7目盛り中5目盛りだし】

●ウキゴム

●ウキ止め
サンライン「浮き止め糸」

●オモリ
内径0.3mmウレタンチューブ装着 0.3mm厚板オモリ1点巻き
※ストッパーにサンライン「とまるウキ止め糸」使用

●ジョイント
極小マルカン

タックルセッティングのポイント

サオ
使用するサオの長さは原則釣り場規定最短尺。この釣りに絶対的な自信を持つ上村は操作性の良さ、回転の速さなどこれに勝るものはない。

ミチイト
何と言っても手返しが速い浅ダナの釣りでは、張り(直進性)としなやかさ(さばきの良さ)が必要不可欠な要素。どんなにアグレッシブに攻めても絡みなどのトラブルを起こすことなく、アングラーにストレスを感じさせないものがベター。なお取材フィールドとなったつつじ池のへら鮒のアベレージサイズは700~800gでキロ級もかなり混じってくるが、ウキの動きを100%引き出すためには、ハリスとの兼ね合いからも0.8号がベスト。

ハリス
基本セッティングは別図の通り。上下共に太さは0.5号、長さは上8cm/下15cmを基本とする。結果的には終日変えることはなく、それだけこのセッティングが煮詰められたものであることの証であろう。またハリスは細いほどエサの動きを干渉しないので、よりナチュラルなアタリが期待できる。

ハリ
ウドン系固形物を用いたセット釣りでは上下のハリの役割に合わせてタイプを使い分けるが、浅ダナヒゲトロセット釣りではサイズこそ違えども上下共に同じタイプを使用する。これについてもかなり煮詰められたものであるらしく、途中で時合いがまったりした際に、下バリのみ一時的にサイズダウンした以外、終始このセッティングを貫いた。

ウキ
この釣りではパイプトップの小ウキを常用するという上村。この日使用したのはやや長めのパイプトップが装着された浅ダナ専用ウキで、ラインナップの中では真ん中の番手となるボディ3.5cmのものをチョイス。結果的にはこのウキでタナを若干浅くしただけで時合いをものにしたのだが、ユニークなのはボディ3.0cm~3.5cm~4.0cmの間に、それぞれ3.25cmと3.75cmというサイズがラインナップされている点だ。かつての浅ダナ専用ウキのボディサイズは1.0cm刻みが当たり前で、近年ようやく0.5cm刻みがスタンダードになったかと思いきや、既に時代はさらなる細分化の世界に突入していたのには驚かされた。もちろんこうした点だけで上村の釣りが構築されている訳ではなく、重要なのは小ウキでありながらしっかりバラケを抱えてウキをナジませることができることであり、これにより速いリズムの釣りであってもタナを安定させることができ、安定した時合いを持続させることを可能にしている。

上村流浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ 其の一:釣れない原因のツートップは、トロロの付け方とバラケのタッチにあり!

比較的容易にアタリを出して釣ることができる浅ダナヒゲトロセット釣りだが、上村の釣りを紹介する前に釣れない要因について話題が及んだので、まずはこの点について触れることでこの釣りを苦手とするアングラーや、肝心なところで上手く釣れないアングラーに光明を与えたい。ズバリ釣れない原因はトロロの付け方(引っ掛け方)とバラケのタッチ(主に開き具合)にあると上村は断言する。

「ヒゲトロセット釣りで上手く釣ることができていない人の多くは、トロロの付け方が悪くてハリから抜けてしまっているか、へら鮒が反応するバラケのタッチを合わせきれていないようです。まずトロロの量や長さは言うまでもなく適量でなければなりません。抜けては大変とばかりに多く付け過ぎると、返って抵抗が大きくなって持ちが悪くなることがありますし、反対に少な過ぎてもへら鮒の興味を惹きつけきれないようで、やはりアタリは出難くなるようです。さらに基本的なことですが、トロロは水分量が多くても抜けやすくなります。トロロをハリに掛けただけでそのままエサ打ちをする人が多いようですが、『ヒゲトロスペシャル』のように一回で適量のトロロがハリに掛かったとしても、打ち込む前に軽く指でつまんで余分な水分をこそげ取ることで、エサ持ちが格段に良くなることを理解してください。

またバラケに関しては、今回紹介しているブレンドがベストパターンであると自負していますので、一度同じレシピで作ってみてください。このバラケの特徴は指先ひとつの圧加減でナジミ幅を自在にコントロールできることと、狙ったタナでの膨らみ方と粒子の漂い方が優れていることです。釣れない人のバラケは大抵アオリばかりがウキに表れ、これを釣れる前触れと勘違いして待ち過ぎてしまうことで負のスパイラルに陥ってしまいます。良いバラケはナジミ込む際のトロロの周辺に滞留し、へら鮒の摂餌欲求を強烈に刺激します。そのとき確実に適量のトロロがハリについていれば必然的に早いアタリが出るようになるので、まずはトロロの付け方とバラケのタッチ、この二つの点について再点検をすることをお勧めします。」

トロロの付け方とバラケの作り方、エサ付け方法、調整方法に関しては、すべて写真と動画にまとめて紹介しているので是非ご覧になっていただき、釣れる上村と何処が、何が違うのかを感じていただきたい。

上村流浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ 其の二:ひと手間を惜しまない

読者諸兄への金言をいただいたところで、実釣に沿って上村の釣りを紐解いて行こう。取材時の釣況はまずまず良好で、開始早々にファーストヒットを決めると、その後もコンスタントにアタリが続き、つつじ池らしいグッドコンディションの大型が次々と竿を絞り込んだ。もちろん只漫然と同じようにエサを打ち込んでいた訳ではないが、傍目にはそう見えてしまうのが上村の真骨頂であり、彼の釣りの奥深さでもある。決して派手に動く訳ではないが、ほとんど分からないレベルの僅かなエサ付けの調整が毎投のように繰り出されており、同じ投は皆無といっても過言ではない。しかしこの僅かな違いをへら鮒は敏感に察知し、常に刺激を与えられることでアタリを出し続けた。

「当たり前のことですが、へら鮒釣りでは決して手を抜かず〝ひと手間〟を惜しまないことが大切ですね。例えばエサ付けの際は勿論のこと、打ち返しの際にも余分なトロロの水気をこそげ取ってやるとか、ハリに残ったトロロの量が減ったらそのまま付けるのではなく、一旦ハリに残ったトロロをきれいに取り除いてから改めてハリに付けるなど、数え上げたらきりがありませんが、それらすべてにおいて手間を惜しまないことが次の一枚に結びつくのではないでしょうか!」

記者はこうした上村の姿勢を、へら鮒に対する〝おもてなし〟の心と理解した。自らの釣技をひけらかす訳でもなく、力尽くで釣り手の得意パターンに引きずり込む訳でもない。常にウキの動きからへら鮒の求めるものを読み解き、タイムリーにそれを提供する。すなわち上村の釣りは、へら鮒を顧客に見立てた究極のサービス業といえよう。

上村流浅ダナヒゲトロセット釣りのキモ 其の三:絶妙な距離感を保つバラケエサの〝膨らみ〟を重視せよ!

先に釣れない理由にバラケのタッチが合っていないと述べたが、逆の見方をすれば釣れる上村のバラケは完全に合っているということになる。ここで前述のバラケのレシピを振り返ってみよう。まず使用している麩材についてだが、上村が個々のエサを使う理由について「凄麩」はこのバラケのベースエサであり、現代浅ダナヒゲトロセット釣りには欠かせない麩材であると言い、「GTS」は持たせたり開かせたりするコントロールが意のままにできると大絶賛。「ダンゴの底釣り夏」はその重さというよりもすべての麩材のつなぎ役として、またタナでのエサの膨らみという重要な役割を担っている。そして「浅ダナ一本」は持たせたり膨らませたりといった「GTS」の役割をさらに強化する狙いでブレンドに加えているが、両ダンゴの釣りを含めて上村の釣りに無くてはならない、唯一無二ともいえるパートナーでもある。いずれも上村のバラケに欠かせない麩材だが、これらにより作り上げられたバラケは狙いのタナで彼の意図するタイミングで膨らみ、トロロとの絶妙の距離感を保ちながらへら鮒を誘引し、明確な食いアタリを次々と出し続けたのだ。

「バラケの粒子は決して上からトロロに降り掛かるのではなく、常にトロロと一心同体というか、寄ったへら鮒に煽られながらもナジんで行くトロロの周囲に漂っているイメージを持っています。従ってバラケが膨らむタイミングが早過ぎても遅過ぎても良いアタリにはつながりませんし、もし大きくズレてしまうとフワフワとした動きばかり続いてしまいます。タナで膨らんだバラケの粒子とトロロがタイミング良くシンクロすると、自分がイメージする速く強いアタリが続くようになりますが、それを可能にしているのがバラケのブレンドであり、タッチの調整であり、エサ付けのコントロール(おもに圧加減の強弱)なのです。」

理想とするアタリを出すためのキモを、上村の解説と実戦の流れから以下のようにまとめてみた。

●手順1:まずはバラケのブレンドを決めることが先決。スタート時点では「ダンゴの底釣り夏」をやや多めに加えていたが、釣況から前述のパターンに変更した後に好転した。

●手順2:手水とソフトタッチの撹拌で強い反応が続くタッチを探り当てる。ときにかなりのヤワネバタッチになることもあるというから、幅広く探ることが肝心だ。なお手直しが行き過ぎたときには基エサを加えて一旦戻ることも必要で、それでも反応が引き出せないときは「凄麩」の後差しで速効改善を図る。

●手順3:最終的に膨らむタイミングはエサ付け時の圧加減でコントロールするが、そのパターンは無限にあると言い切る上村。しかしこの釣りに不慣れな読者諸兄へのアドバイスとして、最低でも強・中・弱の3パターン。慣れてきたら強と中、中と弱の間にそれぞれ1パターンずつ加えてトータル5パターンあればソコソコは形になるとのこと。このように少しずつ慣らしながら徐々にエサ付けパターンを増やしていくと、いつの日か上村並みにバリエーション豊かなエサ付けができるようになるだろう。

総括

今回上村には実際のウキの動きを読みながら、今まさに水中はどのような状態になっているのか。また一投毎に次は何をすべきか、どのような狙いでどのようなエサ付けをすべきかを解説しながら釣り進めてもらった。その結果、一見COOLに見える彼の頭の中は常にフル稼働状態にあり、一瞬たりとも休むこと無く正確無比な答えを導き出し続けていることがご理解いただけたと思うが、つい惰性になりがちなエサ打ちにも、厳しく見れば一投毎にすべて意味があることを再認識されたことは、今さらながら〝目から鱗が落ちる〟思いの取材であった。

「アングラーがやるべきことは、すべてウキの動きが教えてくれます。浅ダナヒゲトロセット釣りは他の釣り方に比べてシンプルなウキの動きが特徴ですので、次に何をすべきか比較的判断しやすい釣り方といえるでしょう。もちろんすべて完璧にできることはありません。うまくいかなければやり直せば良いだけの話ですので、まずは動くことが肝心です。ダメなのは何も考えず、何もしないで、ただ漫然とエサ打ちを続けること。考えて行動すれば必ずへら鮒は答えを出してくれます。また、決して〝ひと手間〟を惜しまないことです。手抜きは必ずへら鮒に見破られてしまいます。動くことと手間を惜しまないこと。このふたつを実戦しながら『ヒゲトロスペシャル』でシンプルに釣りを組み立てれば、必ず好釣果に恵まれるでしょう。」