稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第82回 萩野孝之のチョーチンウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第82回 萩野孝之のチョーチンウドンセット釣り

今年も本格的なセット釣りシーズンを目前に控えた現在、その傾向を振り返ってみると改めて混沌とした現代セット釣りの様相が見えてくる。こうした現状をひとことで言い表せば「釣りが決まらない」ということであろうか。実際に釣りをしていて記者が強く感じることは、基本に則って釣りを組み立てることは昔も今も変わらないが、釣りが決まるまでに時間がかかるうえに、決まったかと思うとあっという間に逆戻りしてしまうといった、つかみ所のない現象を繰り返してしまうことが多々あることである。特にこれからの季節はへら鮒の活性が低下する時期でもあり、一旦悪くなった釣況を好転させることは難しい。ところがそんななかでも確実に釣果を伸ばす男がいる。ご存じマルキユーインストラクター萩野孝之だ。得意な浅ダナ両ダンゴは言うに及ばず、あらゆる釣り方で鬼のような爆釣を決めてみせる萩野だが、意外に見落とされがちなのが釣りを決められない渋い時合い下における、地味ながら堅実なアプローチであり、記者は彼のこうした一面を評価しており、多くのアングラーが参考にすべきところであると確信している。今回はそんなシチュエーションにあえて臨んでもらおうと、萩野自身数年振りという埼玉県幸手市にある神扇池で、これから旬を迎えるチョーチンウドンセット釣りにおける難時合いを攻略するためのポイントを披露してもらおう。

「セットアップ」で文字通り釣りを〝組み立てる〟

「何もセット釣りに限った話ではありませんが、ここ数年釣りを〝決める〟ことが難しくなっていることは確かです。良い感じで釣れ始めたかと思っていると急にアタリが出なくなったり、アタリが復活したかと思えばカラツンばかりでヒットしなくなったりと変化が激しく、我々アングラーを大いに悩ませています。こうした現状を踏まえ、私は常日頃無理にパターンにはめようとはせずに、時々刻々変化する釣況に自らを合せるよう心掛けています。かつては自分の得意なパターンに力尽くでも持ち込もうとしたことがありましたが、無闇に攻めても上手くいくことが少なくなっていることは事実であり、常に安定した釣果を得るためにはへら鮒の側に歩み寄ることも必要だと感じています。」

得意なパターンにハマれば、昔以上に完璧な釣り込みを見せる萩野をしてこう言わしめる現代セット釣りの難解さだが、こうした難しい釣況を少しでも緩和すべく、萩野が愛用するバラケには必ずといって良いほど「セットアップ」がブレンドされている。

「現代セット釣りではバラケのコントロール、すなわちバラケを意のまま抜いたり持たせたりする加減が重要であり、これによって釣果が大きく左右されると言っても過言ではありません。ところがこの加減が言葉で言うほど容易ではなく、多くのアングラーを悩ませるところでもあります。またへら鮒の大型化が進み、僅かなミスにより一瞬で時合いが崩壊してしまう恐れがある現代セット釣りにおいて、タナを作りそれを安定させることは必要不可欠な要素です。私にとって『セットアップ』は文字通り釣りを組み立てるうえでの必須アイテムであり、難しいとされるバラケの扱いを格段にしやすくしてコントロール性能を高めることが可能なので、私自身全幅の信頼を寄せています。」

セット釣りにおける釣況の変化に対しては、何よりもバラケのコントロールが欠かせないという萩野。僅かなタッチやエサ付け時の圧加減で釣れたり釣れなかったりと釣果に大きな差が生じてしまうため、野球のピッチャーに求められるような〝針の穴を通す〟ほどのコントロールが必要不可欠だと力説する。加えて地味な作業だが、安定した時合いを構築するためには、何よりもタナを作ること(へら鮒を狙ったレンジに寄せきること)が大切だと言い、その意味については実釣が始まってすぐに明確に示してくれた。

使用タックル

●サオ
シマノ朱紋峰「嵐月」8尺

●ミチイト
オーナー「白の道糸」1.0号

●ハリス
オーナーばりザイトSABAKIへらハリス 上=0.6号-10cm、下=0.5号-30〜35cm

●ハリ
上=オーナー「バラサ」8号、 下=オーナー「リグル」4号

●ウキ
一志「ロングバージョン」七番
【1.0-0.6mmテーパーグラスムクトップ22.5cm/ 6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ7.5cm/1.2mm径カーボン足8.0cm/ オモリ負荷量≒1.20g ※エサ落ち目盛りは全11目盛り中5目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり「強力一体ウキベスト」

●ウキ止め
オーナーばり

●オモリ
ウレタンチューブ装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばり「Wサルカン(ダルマ型)

萩野流チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の一:へら鮒を刺激し過ぎずに寄せてタナを作る

いうまでもなくセット釣りは、へら鮒をバラケで寄せてくわせエサを食わせるというシステムの釣り方だ。従ってまずはへら鮒を寄せることが先決であるが、単にバラケを打ち込めば良いというものではなく、肝心のくわせエサがあるタナに寄せる必要がある。今回の取材ではさらに肝心なことを示してくれた萩野。それは一定パターンのアタリをコンスタントに出し続ける量のへら鮒。すなわち〝適量〟をキープすることと、タナに寄ったへら鮒を過剰に刺激することなく落ち着いた状態でくわせエサへと誘導するテクニックである。

「チョーチンウドンセット釣りでは、厳寒期に有効とされるバラケを早抜きする〝ゼロナジミ〟の釣りを除き、トップを沈没させるくらい深ナジミさせることが基本です。なぜならこれにより無用なウワズリを防ぎ、確実にタナに寄せることが可能になるからです。そのために不可欠なのがエサ付けしやすくタナまで持って開くという、相反する特性を持つバラケであり、それを可能にするのが『セットアップ』という訳です。私自身久し振りに訪れる釣り場での取材であったためいつも以上にしっかりウキをナジませ、沈没気味に入れた後に3~4回竿先を煽るくらいでトップが水面に出るよう心掛けましたが、それが功を奏したのか、ウキが動き始めてからはコンスタントにアタリが続きましたね。まだへら鮒の活性が高い時期なので、釣れだすまでにそれほど時間はかかりませんでしたが、これから冬に向かって気温や水温が徐々に下がると、アタリを出すまでに長い時間がかかるようになります。そのとき焦ってあまいバラケをポンポン打ち込むと、たとえ短時間でアタリが出るようになったとしてもタナに多くのへら鮒を寄せることができず、かえって釣りを難しくしてしまう恐れがありますので、たとえ時間がかかろうともじっくり確実に寄せることを優先した方が、その後の展開が良い方向に向かうことが多いように感じます。また無闇に多くのへら鮒を寄せるのではなく、アタリを持続させるのに必要な〝適量〟を見極めることと、寄ったへら鮒をはしゃがせることなくタナにキープすることも重要です。これを見落としてしまうとウキの動きが複雑になってしまうばかりか、アタリの割にヒット率が上がらないといった悪循環に陥ってしまうので注意が必要です。」

萩野が使っていたバラケはしっとり感の強いボソタッチであり、指先に摘まみ取っただけではまとまり難いものであったが、軽く揉むことで簡単にまとまるのでエサ付けは思ったよりも容易にできる。しかも深ナジミし過ぎてトップが沈没しても、強めに竿先を煽ればトップが水面上に出るくらいタナでの開きが良いので、その直後に出る早いアタリに対してもすぐにアワせられるという即時臨戦態勢が整うメリットも感じられた。

さすがに萩野、このあたりは抜かりがないと感じ入っていたところ、さらに記者が驚かされたのが彼の素早い対応であった。実際のウキの動きとしては明らかなウワズリの兆候や、過剰な寄り、ハシャギといった動きは記者には感じられなかったが、思うようにヒット率が上がらなかったことの原因がタナに寄ったへら鮒のハシャギにあることを察知した萩野は、それを抑制するためのブレンドへすぐさま変更したのであった。(※詳細はバラケブレンドパターンの項参照)

「ウキの動きに明らかな違いはなく、意外に見落とされがちなのがこのハシャギであり、その原因が『粒戦』にあることが多いのも近年の傾向なのです。特に2~3枚/kg級の中型べらが多い釣り場でへら鮒の活性が高い時期には見られがちな症状で、良いウキの動きで良いアタリが続いているのにカラツンが多いといった現象が見られたときは、バラケの開き過ぎや粒状ペレットによる過剰な刺激が原因であることを疑い、『BBフラッシュ』のような開きを抑制する麩材や『粒戦』そのものを減らすことによって事態を改善できるか試してみてください。」

萩野流チョーチンウドンセット釣りのキモ 其の二:〝急がば回れ〟思いついたことは即実行!ダメなことも必ず確かめる

釣りを決めて爆釣に持ち込みたいという気持ちは、アングラーであれば誰もが同じこと。萩野とて常にそこを目指してはいるが、現実にそうなることは決して多くないことも良く知っている。だからといってただ漫然とエサを打ち込み、へら鮒の食いが良くなることを待つのではなく、常にアングラーサイドから積極的なアプローチを試みて、どうすればアタリが多く出るようになるのか、どうすればヒット率がアップするのかを考えているのだ。

「たくさん釣りたいと思う気持ちは、私も皆さんも同じです。私が常日頃心掛けていることは、ウキの動きから食いアタリを出すために今何が必要かということを考え、それをすぐに実行して確かめることです。こうした行動はベテランのアングラーでも意識していないと意外にできないもので、アタリが途切れてもつい惰性でエサ打ちを繰り返してしまいがちです。現在の管理釣り場は十分な魚影密度が保たれていますので、ウキを交換したりハリスの長さを変えたりしても、エサ打ちを再開すればすぐにへら鮒は反応します。事態を好転させるためには思いついたことはすべて試してみるというのが私のポリシーであり、へら鮒が求めるものが何であるかが分かると必ずたくさん釣れるようになるので、そのための努力は惜しみませんし、こうしたプロセスこそがへら鮒釣りの一番面白いところなのではないでしょうか。」

この日はバラケの変更が釣況を劇的に好転させた最大のポイントになったのだが、それ以外に萩野が行ったことをまとめると以下のようになる。

●対策① カラツンが続いたときにハリスを35cmから30cmに詰めたが、明らかな好転にはつながらず、むしろアタリ(カラツンだが…)自体が減ってしまったことで短いハリスはないと判断し、すぐさま元の長さに戻した。

●対策② ウキのナジミが悪くなったときに、よりバラケを持たせて深ナジミさせる必要があると判断し、とりあえずウキはそのままでオモリを切り、エサ落ち目盛りを3目盛り多く出すようにして様子を見たところ、徐々にタナが下がりアタリが安定してきた。

●対策③ 日射しが雲で遮られると明らかな上っ調子となり、再びウキのナジミが悪くなったところでウキをサイズアップ。ところがナジミが良くなった反面アタリが激減したことでこの方向への調整はないものと判断し、元のウキに戻すことでアタリが復活することを確かめると、それ以降はバラケエサの付け方による慎重な集魚対策に集中し、悪いながらも確実な拾い釣りに徹していった。

「へら鮒釣りでは対策と効果の確認の繰り返しが必要不可欠です。これを実践することで何が良くて何が悪いかが判断できますし、その結果が自分の引き出しを増やすことに繋がりますので、是非実践していただきたいポイントです。なお対策はひとつずつ行うことが肝心で、効果を十分に確かめないうちに複数の対策を同時に行わないことです。例えばウキの交換とハリスの調整を同時に行ったとします。これによって釣況が好転して良く釣れるようになったとしても、いずれの対策が効いたのかが特定できず、同じような場面に遭遇しても的確な対策を取ることができない恐れがあるためです。このケースではまず手間のかからないハリス調整を試してみて、効果が出ればそれでOK。ダメな場合一旦ハリスを元の状態に戻したうえでウキの交換に着手するという手順が望ましいと言えます。」

さらに萩野はダメだと分かっていても、必ず自分の目で確かめることも大切だと良い、取材がひと段落した後に「後学のために一応確かめさせて欲しい…」と言って、この日最初に使用したバラケのブレンドに戻してみると、それまでの安定したウキの動きが一変し、より複雑な動きが増えてカラツンが増え、明らかなペースダウンを招いてしまった。これを確認した萩野は、今日のところは抑えめに攻めた方が良いということが分かったと納得の表情で竿を納めた。

総括

「近年のセット釣りは、かつてのパワー系のような明確に決まったパターンがないのが特徴ですが、傾向としては今回のようにへら鮒を過剰に刺激せずに、どちらかといえばウキの動きを抑え気味に組み立てる方が良いようです。加えてラフな攻め方ではタナ付近に寄せることはできても、確実にくわせエサに誘導させることはできません。ハッキリと言えることは、今まで以上に精度の高いバラケのコントロ-ルが求められるようになっていること。そしてそれを容易にしてくれるのが『セットアップ』であること。このセット用ベースエサは文字通り釣りを組み立てる際の軸になるエサですので、活性の高い時期はもちろんのこと、これから迎える晩秋から冬のセット釣りにも欠かせません。」

不慣れな釣り場であったからこそ、いつも以上に基本に忠実にかつ丁寧に組み立てようとする様子がうかがえた今回の萩野の釣り。それだけに読者諸兄にとっては手本とすべき大事なところがハッキリと分かったのではないだろうか。難解とされる現代セット釣りにあってもなお、確実に釣果を得ている萩野流チョーチンウドンセット釣り。今回もまた基本の大切さを思い知らされると共に、多くのアングラーに希望の光を示してくれた取材であった。